1-2 〜帰還〜


城塞に攻撃を仕掛けた調和の使者達は惑星ヌイベルの
軌道上の大型基地に帰還した。
帰還報告がなされたコンファレンスルームで戦闘に参加した
ミッションクルーが見たものは・・・・


 城塞の攻撃から帰還したファイター達を迎えた基地は、惑星ヌイベルの周回軌道上にひっそりと停泊していた。2隻の巨大なストラトフォートレスは先の特攻作戦の規模にしては過剰な布陣の様に思える。この基地のほぼ正面に位置した小規模な作戦用ワームホールから帰還した3百機近くの機影がセンタードックに隊列を組んで回収されてゆく。この基地、ベルファルスト1番艦の総司令ベストラヴィクスはファイター達の無事の帰還を何よりも快く思っていた。最初のミッションがこんなに簡単に終了した事と、一名の負傷者も出さなかった事に安堵した。
 ついになったベルファルスト2番艦からも通信が入った。
「全機無事帰還」短い電文とほぼ同時に、2番艦から連絡会議に参加する為の何機かのシャトルが到着した。ファイター達はこの円錐形をした巨大基地のセンタードックから中央シャフトに沿って次々と降下し、各ソルジャーのひと時の小さな城に併設された専用デッキに収容された。この基地1艦に1000機近くのファイターを収容する事が出来る規模から考えれば、この辺境の地に赴任して来た彼等に与えられた環境もまんざら劣悪ではない様に見える。むろん彼等の故郷での生活向きとは比べ様もないが。
 全機帰還の報告と同時に会議召集の通知が艦内暗号コードで直接全員に送られて来た。ベストラヴィクスが30フロアー降りたコンファレンスルームに到着した頃には、すでに会場は帰還したソルジャー達で満員だった。誇りを胸にした彼等とともに2番艦の勇者たちも会議にリンクして出席していた。
 「ミッション1は無事終了した。全員の帰還を何よりも誇りに思う。」
 「それでは連絡会議を始める。」
ベストラヴィクスの開会の宣言を、この艦の巨大な会場にしつらえられた階段状の座席でミッションクルー全員と航行システム統轄部以外の全クルーが息をのんで見守った。前方の3Dマルチビジョンには先の攻撃ルートをトラッキングした映像が全員に立体視出来るように写し出された。
 城塞のシールドを攻撃する様子が写った。各アングルから捕らえられた映像はまるでこの城を観察している様に見える。しばらく全てのアングルから外観を見せたあと、機首のカメラから見た映像で正面ファサードを通過して内部に潜入した先の2番機の画像が映し出された。3Dビジョンに記録機体のコード、収録時間、機体スピード、外部プレッシャー情報や環境測定濃度までが映し出されていた。そして赤くダミーというマークがわかりやすく点灯していた。全ての情報が映し出された3Dビジョンを見るとこの会議に出席している全員に何が起こっているかが手にとるように分かる仕組みだった。そしてビジュアル情報と共に流された外部プレッシャー情報は、ダミーが通過したその飛行ルートで回収した環境及び心理的情報を含んでおり、参加したクルーの専門担当分野ごとに必要なすべての情報を網羅していた。もちろん有害要因はフィルタリングされていたが。
 何名かはこの薄められたプレッシャーを受けて気分が悪くなり始めていた。簡単に正面玄関から進入した機体の映像は、中央回廊を突き進み正面に見える明かりに向けて進んでいった。映像が急に上向きになって広間のペデストリアンデッキを超えた瞬間。2つの会場からどよめきが起こった。冷静に映し出された映像には3色に輝く炎をたたえた聖火のような巨大な構築物が忠実に再現されていた。外部大気の濃度プレッシャーは過去にこのセンサーが体感した事のない極限の測定値を示し、もし不注意にシールドスーツなしでこの機体から出たら即死を意味していた。
 「ありましたな総司令」技術調査審議官のエルファスト・ドリステルストが静かにささやいた。
勿論あることはわかって偽装攻撃を仕掛けたわけだからあたりまえの事だが、こんな代物だとは誰も思ってもいなかった。
すでに2番艦の技術調査部が別の機体から回収した大気サンプルの分析に入っている事が3Dビジョンに表示されていた。
 「これが今回探していた代物だ。我々の知るものとはだいぶ違う形態だが、これがこの世界のパワーシステムの一部である事は間違いない。すでに分析が開始された。次の出撃指令まで技術調査部の活躍に期待する。」
 「全員の努力に感謝する。解散。」
短時間で報告会議は終了した。
 「次の出撃は分析待ちだな。敵にトラッキングはされていないな。」
 「それは心配ありません。」
 「それより心理プレッシャーが問題の様ですな。」
情報管理部との会話の最中に技術審議官が頭の中に割り込んで来た。
 「調和の使者達はこんなおぞましいものは体感した事がありませんからな。すでに心理強化プログラムの開発指示を発令してあります。」
 「完成はいつだ。」
 「3日後には完成の予定です。」
 「思った程には簡単にすみそうもないな、この戦いは。」
 「しかし、今迄の準備にかけて来た時間からすればほんの一瞬の事です。」
 「そうだな。」
今回のミッションで回収した情報を特殊コードに圧縮したデータと共に作戦司令本部宛に総司令から短い暗号電文が送られた。
 「目的の物を発見す。分析を開始する。」