1-1 〜潜入〜


調和の使者達はL3フィールドの要の 城の一つに攻撃をしかけた。
城塞の中に潜入したファイターは、そこにたたずむ巨大な施設を目の前に無残にもこの城に囚われた。
しかし城塞の主たちはこの機体の中に 誰一人乗員を発見する事は出来なかった。
さらにその残骸は、この乗り物がこの世界 以外から訪れたものであることを 物語っていた。 


 城内にアラートがけたたましく響き渡った。長い間システム作動音以外の囁きを聞いた事のなかったL3フィールドの安住の砦の中に、事態の急変は告げられた。この世界の住人も通常訪れる事が許されないこの城塞は、漆黒の闇のなかに要所要所に配備されその位置も隠されているはずだった。選ばれた者のみが通る事を許された等間隔に配列された青白く光るビーコンサテライトが闇の中にほの暗く浮かぶ。訪れたファイター達は、ためらいもせずこの城への誘導灯に沿ってまっすぐ正面アプローチに向かった。城内にアラートが鳴り響いた時には、その大群はすでに防衛シールドのまじかまで押し寄せて来ていた。
 
第1陣がシールドにアタックを開始した時、この城の住人達はまだ何が起こったのか理解できないでいた。「システム管理本部が我々の勤務評定にまたいちゃもんをつけるために悪い冗談をおっぱじめやがって。」と文句をいいながら衛兵隊長は訓練マニュアルに従って館内システムを緊急モードに切り替えた。もちろんその前に自動管理システムが迎撃体制を開放したものの、この城全体をおおいつくしているシールドは敵の進入を防ぐ事で精一杯だった。
 一番近くの管制室のモニターにたどり着いた隊長はやっと事の重大さを理解したが、あまりの気の動転ぶりに自分で切り替えたはずのスイッチを何度もたたくのが精一杯だった。ファイター達は3機編隊の雄姿を輝かせながら、数十の隊列を整えてシールドの弱点を探していた。小さな機体からビームを吐き出しながらアタックを繰り返し、薄いピンク色に光る幕の狭間に配置されたエネルギー発生装置に狙いを付け、やすやすとこの壁をすり抜けた。最終防衛ラインを突破した彼等は、正面ファサードをへて行儀よく城内に入場した。石作りにも似た落ち着いた造作の外観とは裏腹に、内部はデコラテイブな装飾が施されその回廊はシャンデリアの光できらびやかに映し出されていた。大広間は支柱にささえられたいくつかの階層で構成されていた。来訪した時間がちょうど食事時だったのか、それともいつもがこんな不調法な歓迎なのか、迎え撃つ敵はほとんどなかった。
 ファイター達は訪れた城で何かを探し始めた。
 そして何機かの視界に、それはじきに見え始めた。隠す必要も無いのか、逆に存在を誇示するかの様に正面回廊の突き当たりのほの暗い空間の中心にその巨大な施設はあった。今機体の外に出ようものなら多分ひとたまりもないほどの高濃度のエネルギーをまき散らしているに違いなかったそれは、おのおの違う色に輝いた3つの聖火台だった。広間にある10階層分にも相当する高さの巨大な塔は、暖炉のレンガよろしく周りをぶ厚いシールドで囲われ、赤、青、金色に輝く炎を永遠にともしていた。その炎から吹き上げる3色に輝く噴煙はシールドに沿って天井の排煙シャフトに上っていた。
 先導のファイターが攻撃をしかけると、さすがに自分達のねぐらを荒らさせたこの城の番犬達がかぶりを振って踊り出て来た。城内を傷つける事が出来るわけもない番犬が放つ遠吼えにも似たひかえめなビームの応酬を軽々とかわしたファイター達は初めての館内ツアーを早々と切り上げ始めた。2番機が何げない回廊を通過した瞬間、床面から突如として出現したトラップに捕獲された。打ち上げられた何本もの格子を持ったレザーネットの檻はこの小さな機体のビームで粉砕するには荷が重すぎた。狭い檻の中をしばらく右往左往していた2番機はついに観念したかのように機首を床面にまでこすりつけ、リバースの姿勢を取り逆立ちした格好になった。
 その瞬間鋭い閃光があたりを走った。ありったけのビームが床面に撃ち込まれたのだ。どれほどの厚さがあったのかつい今迄2階に位置していた床板はごそっとブロックごと砕け散って下階に落ち、次の瞬間活きおい良く飛び出した機影は仲間の編隊にもどるべくコースを探し始めた。不思議な事に館内にはほとんど手を触れる事無く、何機かはすでにツアーを終了しこの城を後にしていた。罠から解き放たれた2番機が先導の1番機を発見し、再度の敵のまちぶせをかわそうとした瞬間、最後の罠に捕らえられた。2番機は脱出路に突如として出現した遮蔽扉に激突して散った。これを見た3番機は今迄の仲間には目もくれず、その扉を猛烈なビームで撃破してこの城を後にした。
 あれだけの来訪者を迎えたにもかかわらず、かすかなダメージを発見出来る以外さしたる変化もない静寂がまた城にもどった。城主達は重武装の兵士が取り囲む中、撃破した敵のファイターから捕虜を引きずり出そうと勢い良くドアロックを解き放った。 しかしその機体の中には何も発見する事が出来なかった。この戦闘機をばらばらに分解し調べ上げた努力の末、分析コンピューターが導き出したのは所属不明と分析不可能の答えだけだった。
 しかし彼等にとって唯一最大の収穫は、今迄見た事もない動力推進剤を使うこのファイターがこの世界以外から訪れたのではないかという推論だった。